キャンピングカーの歴史 第5回

History of Camping Car
キャンピングカーの歴史 第5回
文:町田厚成

 1960年代に入って、ようやく日本でも「オートキャンプ」というレジャーが認知されるようになった。前回コラムでもご紹介、日本人としてヨーロッパから最初にワーゲンキャンパーを購入した荻原一郎氏のように、海外のキャンプ場を経験した日本人が増えてきたからである。

 しかし、それが即国産キャンピングカーの普及につながったわけではなかった。というのは、キャンピングカーのベースとなる自動車そのものがまだ日本の市場にあまり出回っていなかったからだ。わが国の自動車保有台数が1,000万台を突破したのは、60年代も後半に差し掛かった1967年(昭和42年)のこと。このうち、個人所有のマイカーはまだ231万台だった。

 しかしこの時期、早くもキャンピングカーの需要が伸びそうだと判断した企業があった。輸入車ディーラーとして成長を遂げていた「ヤナセ」である。同社は、海外で自家用車市場が伸びていくにしたがって、キャンピングカー市場も広がっていく様子をつぶさに見ていたのだ。そこでヤナセは1967年、フォルクス・ワーゲンのキャンピングカーを24台輸入し、レンタカーとして供給することに踏み切った。業務用のキャンピングカーが登場したのは、このヤナセによるワーゲン・キャンパーの導入をもって始まる。

 その前年には、日本で最初のハイグレードキャンプ場である「芦ノ湖国際モビレージ」が神奈川県箱根町に誕生する。これは有料道路の芦ノ湖スカイライン沿いに藤田観光が整備したもので、日本でも珍しいヨーロッパスタイルの施設内容を誇る近代的なオートキャンプ場だった。

 同じ時期、日本で最初のオートキャンプクラブである「日本オート・キャンピングクラブ(NACC)」が発足し、できたばかりの芦ノ湖国際モビレージで初のキャンプイベントを開催した。参加車両は24台で、そのなかの1台が萩原氏のワーゲンキャンパーだった。これが、日本で最初にキャンピングカーが参加したオートキャンプ大会ということになる。

 NACCは、1968年に「日本オート・キャンプ協会」を設立。1970年には、三浦半島先端の城ヶ島公園において、ついにわが国初の“キャンピングカー展示会”を開いた。展示車両は、主にキャンピングカーに関心を抱いていた素人によるハンドメイドが中心だったが、すでに市販のキャンピングカーを開発していたメーカーも展示車を持ち寄った。記録として残っているメーカーは用品メーカーも含めて、武ボディ、星崎電気、ミズノ、小川テントなど12社。キャンピングカーの展示は16台であったという。

 当時、日本オート・キャンプ協会の専務理事を務めていた故・岡本昌光氏は、そのショーの様子をこう振り返る。「キャンピングカーショーといっても、最初は好きな人間たちが集まって“自慢大会”をやるつもりだったんですよ。まだ、キャンピングカーなどを知っている一般の人はいないだろうと思っていましたから。ところが、『城ヶ島でキャンピングカーショーが開かれる。』という2行ほどの記事が日経新聞に載ったんですね。そうしたら、翌朝、目を覚ましてみると500台ぐらいの自動車がやってきて、見物のお客さんが会場を埋め尽くしていたんですよ。驚いたのはわれわれの方でした。その光景を見て、日本にもオートキャンプやキャンピングカーのブームが来るかもしれないという実感が、ひしひしとわき起こってきたんですね。」

 岡本氏は、この展示会の成功から、日本にキャンプブームが訪れるのは時間の問題と読んだ。また、「キャンプショー」というイベントが、いかに人々の関心を集めるかということも実感したという。

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日本初のオートキャンプクラブ“NACC”のパンフレット。

02 1960s CampScene

<画像2キャプ>
60年代後半~70年代初頭のオートキャンプ風景。

03 okamoto


“NACC”の専務理事を務めていた岡本昌光氏(故人)